スーパー高齢者の秘密10
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衛生の発達
ヒトと類人猿のDNAをくらべた2016年の研究によれば、およそ530万年前には、私たちと腸内細菌は「持ちつ持たれつ」の関係だったと推測されています。
腸内細菌は、人類にとって最古の友人だと言えるでしょう。
にもかかわらず、現代人は最古の友人との共同生活を取りやめようとしています。
長い人類史のなかで、初めての仲違いが起きているのです。
その原因はおもに2つで、ひとつめは「衛生の発達」です。
現代人は衛生の発達で平均寿命を大きく伸ばしてきました。
古代人を悩ます多くの感染症を克服できたのは、抗生物質のような医薬品を発明し、クリーンな水道水や下水といった衛生設備を発展させたおかげです。
ただ、この発明が現代人に重大な副作用をもたらしたのも事実ではあります。
抗生物質が腸内の善玉菌を殺し、衛生設備が有用な菌との接触を妨げてしまうからです。
典型的なのが、1989年の東西ドイツで観察された事例でしょう。
東西ドイツの事例
この時期、東ドイツの生活水準は西ドイツより低く、衛生環境はかなり劣悪なものでした。
ところが、いざ東西が統一された後に調べてみると、清潔な暮らしをしていた西ドイツの方が、東ドイツより花粉症の患者数が4倍も多かったのです。
この現象は、東ドイツでは女性の就業人数が多かったため、保育所の利用率が高かった影響で起こりました。
衛生状態が良くない保育所に預けられた乳幼児の方が微生物にさらされやすく、その分だけ免疫システムが鍛えられたのです。
腸内細菌のエキスパートであるロンドン大学のグラハム・ロック氏は言います。
「高度に近代化した国ではライフスタイルが大幅に変わり、環境内の微生物や寄生虫との接触が減っている。これらの生物は、人類の進化のうえで免疫系の生理反応をつかさどる重要な役割を果たしてきた」
かつては身の回りにあふれていた微生物が近代化のプロセスとともに減り、そのおかげで免疫システムに狂いが出たというわけです。
(続く)